熊本法学154号(2022年3月発行)は、2021年度末で定年退職されたヘルツオーク・エーバハート先生の退職記念号でした。

学部長(立場的には熊本大学法学会会長)として巻頭に「献呈のことば」を書かせていただきました。

献呈のことば

 2022年3月31日をもって、熊本大学法学会会員であるヘルツォーク・エーバハート准教授が熊本大学人文社会科学研究部を定年退職されます。先生は、長年にわたり熊本大学のとくにドイツ語教育と研究の充実発展に尽力され、そのご功績は大きなものがあります。そこで、熊本大学法学会は、長年にわたる先生のご貢献に対する感謝の気持ちを表するために、ここに退職記念号を刊行し、惜別の念を込めて献呈することにいたします。

 ヘルツォーク先生は、1956年に旧西ドイツのベツドルフ市でお生まれになりギムナジウムを卒業された後、兵役義務の代わりに代替義務に従事されています。先生の国政に対する市民としての在り方についてのお考えが表れている行動のように感じます。その後、ボン大学に進学された先生は、学部・大学院において日本語学・民俗学を専攻されたております。

 本学との関係では、1987年に教養部のドイツ語の外国人教師を委嘱され、法学部には2005年に助教授として採用されています(2007年の改正学校教育法施行に伴い准教授)。その後、ドイツ語教育はもちろんのこと、ドイツ・フライブルク大学への学生の研修旅行を引率されたり学生各自のドイツ研修のサポートをしていただきました。法学部では、長らく国際交流委員会の業務にも携われています。

 また、教員とシュタムティッシュ(Stammtisch、気楽に仲間と集まってお話しすること)をされていました。そこでは、先生が若いころ旧東ドイツで仕事をされたことがあること、ドイツの国政選挙の様子、ドイツの初等中等高等教育の状況などが話題になっていたようです。先生を囲んで日本の事情とドイツの事情を語り合うこのシュタムティッシュは、研究においてドイツを比較法国としている教員にとって、ドイツを身近に感じる機会にもなっていたと思います。ドイツ語による会話をブラッシュアップする機会にしていた教員もいるようです。

 本学の法学系部局に所属されているドイツ語教員だからでしょうか、熊本地方裁判所の公認通訳者として熊本地方裁判所、熊本地方検察庁、那覇地方検察庁にて通訳をされた経験もお持ちです。ある事件での被害者から「誠意を見せろ」という被告人への要求をどう通訳すればよいのか困ったことがあるともお話されています。状況や文化を介在してはじめて理解できるような日本語における婉曲表現を外国語・ドイツ語に翻訳することは難しいということでしょう。一般の法学部教員とはまた別のさまざまな場面でご活躍されていることのエピソードの一つです。

 このように、ヘルツォーク先生は、長年にわたって教養、法学部、大学院をはじめ本学のドイツ語教育と研究、さらには法廷での通訳、そして小学校を中心としたドイツ文化に関する講演などの社会貢献活動においても大きな功績を残してこられました。その豊富な経験と高い見識を持たれた先生のご退職は、本学にとって大きな損失です。先生におかれましては今後とも本学を見守っていただきますとともに益々ご壮健で過ごされることをお祈りし、これまでのご貢献に対して法学会を代表いたしまして心から御礼申し上げます。

熊本大学法学会会長 大日方信春