2022年6月4日(土)に対面とオンラインのハイブリットで実施されたシンポジウムで主催者を代表して挨拶しました。その全文です。
人社研究部長補佐・法学部長挨拶
熊本大学法学部学部長の大日方です。本日は、お忙しいところ、熊本大学大学院人文社会科学研究部主催、熊本大学法学部共催のシンポジウム「日本における外国人の労働 ~ 技能実習制度に見る分断 ~」にご参加いただきありがとうございます。研究部及び法学部を代表いたしまして、一言、ご挨拶いたします。
現在の外国人技能実習制度は、日本で学んだ技術又は知識等を母国に持ち帰ってもらうことで、開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」の視点から、平成29年(2017年)に施行されたいわゆる「技能実習法」に基づくもので、その本旨は、わが国の国際協力・国際貢献を目的とする制度とされています。ただ、その実体は、法律の3条2項に「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と規定されているにも関わらず、少子高齢化で進んだわが国の「人手不足」を補うものとなっていることはご存じの通りです。
こうした技能実習生の制度は、一方で人手不足の中で外国人を雇用したいという産業界、とくに新型コロナウィルスの感染拡大を機に医療・福祉分野の人材不足を埋め合わせたいという要望と、永住を前提とする移民政策は取らないとしてきた日本政府の建前との間の利害調整の産物であるといえると思います。このような政府・利益団体の思惑のある制度には、往々にして、それに関係する弱い立場にある当事者の権利・利益が守られていないという実態があることが予想されるところです。
ところで、熊本大学法学部は本年4月1日に法学部附属地域の法と公共政策教育研究センターを設置しております。愛称を「エルペルク」と名づけたこのセンターでは、熊本で生じている、けれども、実際には日本全国のどこにでも生じ得る社会問題を取り上げて、専門分野横断的な視点から分析するという「実践社会科学」という研究手法の確立を目指しております。本日のシンポジウムにご登壇いただく講師のみなさまは、それぞれのご専門の立場から、外国人技能実習生が抱える問題に実務的に関わられてきたご経験をお持ちです。本日ここでご指摘いただいた諸問題は、今後は本センターで引き取らせていただき、所属教員による更なる検討がなされるものと期待しております。また、昨年、一昨年と法学系ではこの時期6月にシンポジウムを開催しております。一昨年の2020年は「被害者分断の克服に向けて」、昨年の2021年は「冤罪被害者と犯罪被害者を結ぶ」と題するものですが、その内容はいずれもエルペルクのウエブページにある「研究実績」のページでご覧いただけます。
最後に、本日は学生の視聴もあると思います。本学には法学部の上に社会文化科学教育部法政・紛争解決学専攻という大学院があります。きょうは法学部そしてこの大学院で日頃どのような研究がなされているのかの一環にふれる機会となっております。すこし背伸びをしたお話しになるかもしれませんが、諸君らがこれから社会を担っていくにあたって知っていなければならない実態についてお話しいただけると思いますので、よく聞いて、今後の学修の中で活かしていってもらいたいと思っております。
すこし長くなりましたが、これをシンポジウム開催にあたってのわたしからのご挨拶とさせていただきます。