昨日(2024年6月15日)、勤務校で開催したシンポジウムに主催者を代表してご挨拶させていただきました。

開会挨拶

 熊本大学法学部学部長の大日方でございます。本日は、お忙しいところ、熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)主催、熊本大学法学部共催のシンポジウム「災害時の民事法上の課題について - 被災者支援の在り方を中心に」にご参加いただきありがとうございます。研究部および法学部を代表いたしまして、一言、ご挨拶申し上げます。

 2016(平成28)年4月14日と16日、熊本は震度7の地震におそわれました。後に「平成28年熊本地震」と呼ばれております。この地震から1年経とうとしていた2017年1月21日、熊本大学法学部は震災被害から生ずる法学・公共政策学的課題について、シンポジウム「熊本地震が提起する法的・政策的課題」を開催しました。また、その後「熊本地震と法律学の役割」と題する連載を日本評論社様が発行する法学雑誌『法学セミナー』誌上で、2017年6月号から同年の12月号まで半年にわたり実施することで、このテーマについての検討を深めております(https://www.law.kumamoto-u.ac.jp/lperc/news/2022/04/post-4.html)。さらに、それらの研究成果の内容をアップデートすると同時に、震災以降継続的に研究してきた研究成果として論文集『熊本地震と法・政策』を成文堂様のご協力を得て一昨年に刊行いたしました(https://www.law.kumamoto-u.ac.jp/lperc/news/2022/11/202211-2.html)。こうした熊本大学法学部所属教員を中心とした一連の研究の中に、震災被災者が被災後の生活を再建するにあたり、たとえば「職を失った」「住処が倒壊してしまった」「再建のために金銭的借り入れが必要になる」といった民事上の課題を扱ったものがございます。本日のシンポジウムは熊本大学法学部が組織として実施してきた「地震と法・政策」研究のひとつのテーマについて深掘りするものでございます。

 ところで、地震大国であるわが国では度重なる大地震が起こっております。記憶に残るものでも、1995年の阪神淡路大震災、ここでは「ボランティアの役割」が大きく注目されたかと思います。そして、2011年の東日本大震災、ここではきょうとり上げるような災害復旧・復興のための法制度の不備が指摘され、その後、これらの法整備が実施されてきたのではないかと思います。そしてここ熊本で生じた2016年の震災、さらに本年(2024年)1月1日には、いまなお復旧のさなかにある能登半島地震が発生しております。こうした一連の被災状況のなかで、とりわけ地震という場面ではなくても、ボランティアの意義、そうした活動への取り組みというものは随分と身近なものになっているのではないかと思います。ただ、実際に被災された方、日常の生活を失われた方の生活再建を目指す法制度はどのように整備・運営されてきているのでしょうか。本来なら安心を届けるための法制度でありながら、法律に関することであるという点もあって、ともすると一般の市民には届きづらいものになっているのではないでしょうか。こうした状況のなかで、8年前の被災地にある本学において、これまで災害復興に関する法律を専門的に研究されまた実務に携われてきた方をお呼びして学術的に災害からの復興支援に関する法制度について検討する機会を設けられたことは、誠に意義深いことだと考えております。お忙しいなかご出席いただいたパネラーの方々に御礼申し上げます。

 本日のシンポジウムでは震災時における被災者支援について、さまざまな角度から論点整理がなされると思われます。本シンポジウムの議論が有意義なものとなることを祈念し、また、その成果は熊本大学法学部・大学院での教育に生かすことをお誓いして、シンポジウム開催にあたって主催者を代表してのご挨拶とさせていただきます。

 本日はよろしくお願いいたします。