熊本法学163号(2025年3月)は、令和6年度(2024年度)末をもって定年退職された岡本友子先生(民法)、若色敦子先生(商法)の退職記念号でした。

その冒頭に「献呈のことば」を書かせていただきました。

献呈のことば

 令和七(二〇二五)年三月三一日をもって、熊本大学法学会会員である岡本友子教授、若色敦子准教授が熊本大学大学院人文社会科学研究部を定年退職されます。お二人は、長年にわたり法学部および大学院の教育と研究の充実発展に尽力され、そのご功績は大きなものがあります。そこで、熊本大学法学会は、長年にわたる先生方のご貢献に対する感謝の気持ちを表すために、ここに退職記念号を刊行し、惜別の念を込めて献呈することにいたします。

 岡本友子先生は、一九八三年に熊本大学法学部を卒業、一九八六年に同大学院法学研究科修士課程を修了されています。本学の同窓生です。その後、神戸大学大学院法学研究科博士後期課程を経て、一九九一年四月に静岡大学法経短期大学部法経学科に専任講師として赴任され、翌年には助教授に昇任されています。一九九五年四月に広島大学法学部に赴任され、ハワイ大学ロースクールおよびインディアナ大学ロースクールの客員研究員などにも従事されております。一九九九年四月には広島大学法学部教授に昇任され、二〇〇四年四月には同大学大学院法務研究科教授に就任されております。熊本大学には二〇〇九年一〇月に大学院法曹養成研究科の民法担当教授として赴任されています。その後、二〇一七年に法学系教員の所属が一元化されたことに伴い、現在の大学院人文社会科学研究部の教授として配置換されています。法曹養成研究科においては二〇一八年に同研究科副研究課長を、法学部においては二〇二〇年に法学科長(教務学生委員会委員長)を歴任されました。

 岡本先生は、民法学、とくに不法行為法における人身損害賠償論について日米比較の手法を用いてご研究されております。近年においては、ネットワーク社会における人格権保護に関する領域にまで、ご研究の幅を広げられて、精力的にご業績もあげられてきました。また、熊本に関わる問題としては、令和元年のハンセン病家族国家賠償請求訴訟を契機として、ハンセン病問題について民法学の視点からの検討を実施されています。

 ところで、私事になってしまいますが、広島大学に勤務されていたときには、当時、大学院生として在籍していたわたしとも、テニスなどして遊んでもらいました。教員からも学生からもウラでは「友ちゃん、友ちゃん」とよばれて慕われておりました。その先生のご退職を本学で同僚として迎えることができたことは、わたしとしても感慨深いことでございます。

 若色敦子先生は、一九八三年に専修大学法学部を卒業し、同大学院法学研究科博士前期課程および博士後期課程を経て、一九九〇年四月に生まれ育った関東を離れて、九州共立大学経済学部に専任講師として赴任されております。その後、一九九五年四月には同助教授に昇任されております。熊本大学には本学に大学院法曹養成研究科が設置された二〇〇四年の四月に、同研究科の商法担当の助教授として赴任していただきました。その後、二〇一七年に法学系教員の所属が一元化されたことに伴い、現在の大学院人文社会科学研究部の准教授として配置換されております。その間、二〇二一年度は熊本創生推進機構に所属されておりました。法曹養成研究科においては教務委員長等を、人社研究部配置後は法学部および大学院社会文化科学教育部の各種委員会業務に従事されております。昨年(二〇二四年)には、本学において永年勤続者表彰をお受けになっておられます。

 若色先生は、商法学、とくに消費者法の領域において、消費者取引における法的問題についてご研究されております。近時話題となっているSNS投資詐欺・ネットマルチ・国際ロマンス詐欺等の問題を事例を使ってわかりやすく説く授業には定評もあります。また、スパスパっと業務をこなすお姿に感銘を受けた人も多いと思います。

 ところで、わたしの研究室は先生の目の前なのですが、ときに先生の研究室からはよい匂いが立ち込めます。そして、楽しそうな学生の声も。お鍋をつつきながらの指導や交流がなされていたことと思います。わたしもよくおやつをいただきました。また、先生のゼミは、大変な人気ゼミで、募集開始の日にはすでに研究室扉に「ゼミの募集は終了しました」と掲示されていたことをよく見ました。

 このように岡本友子先生、若色敦子先生は、長年にわたって法学部および大学院において本学の教育と研究、さらには大学運営や社会貢献活動等においても大きな足跡を残してこられました。とくに豊富な経験と見識を持たれた二人の民商法の教員の退職は、法学部・大学院にとって多大な損失です。先生方におかれましては、今後とも本学を見守っていただきますとともに、益々ご壮健で過ごされることをお祈りし、これまでのご貢献に対して法学会を代表いたしまして心から御礼申し上げます。

熊本大学法学会会長 大日方信春