2023年6月17日(土)、熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)主催・法学部共催で表記のシンポジウムを開催しました。主催者を代表しての挨拶の全文です。

開会挨拶

 熊本大学法学部学部長の大日方でございます。本日は、お忙しいところ、熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)主催、熊本大学法学部共催のシンポジウム「内密出産の現状と課題 - 子どもの出自を知る権利を中心に -」にご参加いただきありがとうございます。研究部および法学部を代表いたしまして、一言、ご挨拶申し上げます。

 母親が自分の身元を限られた関係者だけに明かして出産をする「内密出産」については、熊本市の慈恵病院が2021年12月の国内初となる実施例を発表して以来、多くのメディアでも取り上げられております。また、同病院が親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」(慈恵病院では「こうのとりのゆりかご」との名称が用いられていますが)この運用を2007年に始めてから15年経ったとのことで、子どもの「出自を知る権利」についても、本年はあちこちで積極的な議論が展開されております。こうした状況のなかで、同病院が所在する熊本市にある本学で、親の側からについては匿名での出産および匿名での新生児預け入れの問題、そして、子の視点からは出自を知る権利の主張について、これまで専門的に研究されまた実務に携われてきた方、そして何よりも当事者の方をお呼びして学術的に検討する機会を設けられたことは、誠に意義深いことだと考えております。お忙しいなかご出席いただいたパネラーの方々に御礼申し上げます。

 さて、熊本大学法学部は、昨年、法学部附属地域の法と公共政策教育研究センターを設置しております。愛称を「エルペルク」と名づけたこのセンターでは、熊本で生じている、けれども、実際には日本全国のどこにでも生じ得る社会問題を取り上げて、専門分野横断的な視点から分析するという「実践社会科学」という研究手法の確立を目指しております。それは、ハンセン病差別問題や水俣病の問題など、全国のどこででも起こり得る問題が、熊本の地で生じているからです。昨年のちょうど今頃に実施したシンポジウムでは、死体遺棄罪に問われ後に最高裁で無罪判決を得た元実習生の裁判の状況を含め外国人技能実習生の問題を取り上げております。これもたまたま熊本で発生しております。本日のテーマである内密出産や匿名での新生児預け入れという問題は、すでに全国のどこででも問題となっている、またなり得る事柄だと思われます。こうした問題に大学として組織的に注目し、そのことを学部および大学院の教育のなかで学生諸君とともに検討していくために、先のセンターは設置されました。

本日のシンポジウムでは内密出産および出自を知る権利について、さまざまな角度から論点整理がなされると思われます。本シンポジウムの議論が有意義なものとなることを祈念し、また、その成果は熊本大学法学部・大学院での教育に生かすことをお誓いして、シンポジウム開催にあたっての主催者を代表してのご挨拶とさせていただきます。

 本日はよろしくお願いいたします。