勤務校の小川久雄学長は就任した昨年の4月から月1回の定例学長記者懇談会を実施しています。

 法学部も近頃の取り組みを紹介する機会をいただいたので、5月11日(水)の学長記者懇談会に出て、本年4月1日に設置した熊本大学法学部附属地域の法と公共政策教育研究センター(愛称、「エルペルク」)について報道各社の皆様の前で説明させていただきました。その後、同日のNHKクマロクでその様子を放送してもらいました。

エルペルクの紹介

 法学部、学部長の大日方です。それでは「法学部附属地域の法と公共政策教育研究センターの設置について」説明させていただきます。

 本センターは、本年4月1日に設置いたしました。名称は「熊本大学法学部附属地域の法と公共政策教育研究センター」ですが、本センターは法学部が「法(Law)」と「公共政策(Public policy)」に関する「教育(Education)」と「研究(Research)」を組織として実施する「拠点(Center)」なので、愛称をLPERC(エルペルク)と名づけました。

 エルペルクは業務内容に応じて次の2つの部門をもっています。

 1つめは【地域紛争予防・解決部門】です。熊本は、ハンセン病問題、水俣病問題、川辺川ダム建設問題等、日本中の耳目を集めた大きな社会的課題を抱えた地です。また「赤ちゃんポスト」(内密出産)に関する問題、旧優生保護法に関する問題、外国人技能実習生に関する問題といった、日本中のどこでも生じ得る社会的課題も熊本で顕在化しています。地域紛争予防・解決部門は、こうした社会的課題について検討するための拠点となることを目指しています。

 2つめは【地域ガバナンス先導部門】です。熊本大学法学部は、高校生はもちろんのこと、国・地方自治体・専門職団体・地元企業等、多種多様なステークホルダーのためにあります。地域ガバナンス先導部門は、たとえば地方自治体の職員研修等への講師派遣、社会人へのリカレント教育の提供、地元団体・企業と連携しての問題解決等を実施するための拠点となることを目指しています。

 この2つの部門で実施される業務には、大きな特徴が2つあります。

 1つめは、いずれの部門における業務も、法学部の教員はいままでも個別に、又は、組織的であったとしても散発的に実施してはきているものです。たとえば、熊本地震の後には自然災害から生じる社会科学的問題についてシンポジウムを開催し、それを東京の出版社の日本評論社さんから刊行されている法学雑誌に特集記事として掲載してもらっています。また、所属教員によるハンセン病等に関する法学的問題を扱った論文もあります。ただ、こうした研究がワンストップでまとまっている場所がないので、社会的に「見える化」されていません。本センターをつくることで、いままでのこうした散発的な研究をまとめることができるので社会に熊本大学の法学系の成果、存在意義をアピールすることができます。さきほどの法学雑誌に掲載されている論文は、すでにセンターのウエブページからご覧いただけます。サイトのURLは資料の1ページの下にありますが、最終ページにQRコードを付けておりますので、是非、ご覧ください。

 2つめの特徴としては、いずれの部門における業務も、成果を教育に活かすことを主眼に置いております。熊本大学の法学系は現在、法学部、大学院社会文化科学教育部の法学系専攻である法政・紛争解決学専攻とマサチューセッツ州立大学ボストン校とのジョイントディグリープログラムである国際連携専攻の教育を担っておりますが、その各教育レベルでザ・熊大法学系と呼べるような熊本大学にオリジナルな科目・教育内容の確立を目指しています。法学という学問は、ある意味、地域性のない、全国一律のものです。そういうわけで、全国のどこの法学部で教えられている内容もほぼ一律ということになります。それは法曹養成や公務員養成という意味では必要なことなのかもしれません。ただ、それでは、熊本大学法学部・大学院を選ぶ意味もとくにない、ということになります。このことは、このところの授業のオンライン化でさらに顕在化したことだと認識しております。このセンターは、熊本大学法学部・大学院で熊本大学独自の法学教育を実施するための拠点です。また、その成果を社会に還元する、熊本大学法学部を利用してもらうための窓口にもなりたいと考えております。

 このような附属センター・エルペルクの業務内容・設置目的を一言で表したものが資料各ページの上に書かれております「熊本で生じた社会的課題を分析すると共に自治体や企業との連携強化を目指した教育研究拠点の構築」というものです。これから熊本大学の法学部は、とくに学外との関係において進めて行く業務について、エルペルクが中心に遂行していく予定にしております。

 そして、先月4月1日にセンターを設置して以降、すでに2件の連携協定を締結しております。

 1件目は、4月25日に人吉農芸学院と「教育及び学術研究に係る連携協定」を締結させていただきました。人吉農芸学院は、球磨郡錦町(にしきまち)にある中等少年院です。この協定に基づき、本学から先方へは在院者の法教育や職員研修の補助を、先方から本学には本学教員への実務的知見の提供を継続的に実施していく予定にしております。とくに、これからの時代、少年院の存在意義も問われているようで、先方からは人吉農芸学院の存在意義について学問的裏づけをいただきたいという趣旨のオーダーをいただいております。

 2件目は、4月27日に熊本労働局と連携協定を締結させていただいております。この協定に基づき、本学から先方へは労働局の職員研修への講師派遣をすること、先方から本学には本学教員への実務的知見の提供を継続的に実施していく体制ができあがりました。また、熊本労働局とは、昨年度末に法学部生に対する教育提供についての協定も締結させていただいております。

 最後に、エルペルクから1つ、お知らせがあります。エルペルクでは、来月6月4日(土)に公開シンポジウムを開催する予定にしております。テーマは「日本における外国人の労働 - 技能実習制度に見る『分断』」です。シンポジウムでは技能実習生の事件・支援に携わる弁護士・大学教員・NPO法人職員をお招きして、その経験・実践に根ざしたお話しをいただく予定にしておりますので、皆様にこの場をお借りしてご案内いたします。予定されている登壇者は資料記載の通りですが、とくに弁護士の石黒大貴さんは、本学法学部の平成26年度卒業生で、現在、ベトナム人技能実習生が死体遺棄罪に問われている事案の代理人を務めている方です。石黒さんを筆頭に、外国人技能実習生を取り巻く問題に最前線で取り組んでいる方をお呼びしてのシンポジウムですので、是非、当日の取材等もよろしくお願いしたいと考えております。お問い合わせ先は資料記載のところまでお願いいたします。少し長くなりましたが、わたしからは以上です。ありがとうございました。