熊本法学157号(2023年3月)は令和4年度(2022年度)末をもって定年退職された葉陵陵先生(外国法、中国行政法)、渡部薫先生(地域政策)の退職記念号でした。その冒頭に「献呈のことば」を書かせていただきました。

献呈のことば

 令和五(二〇二三)年三月三一日をもって、熊本大学法学会会員である葉陵陵教授、渡部薫教授が熊本大学大学院人文社会科学研究部を定年退職されます。お二人は、長年にわたり法学部および大学院の教育と研究の充実発展に尽力され、そのご功績は大きなものがあります。そこで、熊本大学法学会は、長年にわたる先生方のご貢献に対する感謝の気持ちを表すために、ここに退職記念号を刊行し、惜別の念を込めて献呈することにいたします。

 葉陵陵先生は、一九八二年に中国の上海師範大学歴史学部を卒業され、上海市内で歴史科目の教員をされた後、華東政法大学大学院に進学され、憲法学を専攻されております。同大学院を修了後、同大学法学部で講師をされ、その後、わが国の中央大学大学院法学研究科博士後期課程に進学され(公法学おもに行政法学専攻)、一九九四年には同課程を修了し博士(法学)の学位を授与されております。本学には同年の九月に法学部助教授として赴任され、二〇〇六年には教授に昇任されています。先生のご活躍はその後の法学部のダイバーシティー促進の礎となっております。その後、二〇〇八年には大学院社会文化科学研究科に配置換、大学院の法学研究コースのコース長などの役職を歴任されました。二〇一七年に法学系教員の所属が一元化されたことに伴い、現在の大学院人文社会科学研究部の教授として配置換されています。

 この間、葉先生は、法学部・大学院ばかりではなく、本学全学における国際交流事業に多大な貢献があります。そのことは枚挙に暇ありません。また、海外複数の大学において客員研究員もお務めになり(アメリカ・パシフィック大学ロースクール、香港大学法学院公法及び比較法研究センター、国立シンガポール大学東アジア研究所、シドニー大学ロースクールアジア太平洋センターなど)、その成果は著書、多数の論文として公表されております。とくに中国行政訴訟制度に関するご研究はわが国の法学界に比類ないご貢献をもたらすものでした。さらに、本学と海外諸大学との間で締結された学術・学生交流協定おいて連絡調整責任者となり、学生の短期研修プログラムの企画・引率も毎年のようにされております。学生からの人気も高く、「リンリン先生、リンリン先生」と慕われておりました。

 渡部薫先生は、一九八三年に東京大学文学部社会学科を卒業され、大成建設株式会社に入社されております。入社後は、一九九二年にイギリスのケンブリッジ大学土地経済学科の修士課程に進学され、一九九三年には同課程を修了されM.Phil.の学位を授与されております。その後、ケンブリッジ大学、株式会社富士総合研究所での研究員を経て、二〇〇一年には千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程に入学され、同課程を二〇〇九年に修了、学術博士の学位を授与されております。この間にも財団法人全国市街地再開発協会の研究員を務めておられます。本学へは大学卒業後在職されていた大成建設株式会社を退職された二〇〇九年に大学院社会文化科学研究科の教授として赴任されております。大学院では公共政策学の専攻長等を歴任されましたが、その功績をかわれ二〇一三年4月から二〇一五年三月までは学長特命(大学改革・将来構想)担当の学長特別補佐をされております。二〇一七年に法学系教員の所属が一元化されたことに伴い、現在の大学院人文社会科学研究部の教授として配置換されています。

 本学での渡部先生は、地域経済学や文化政策に関する教育研究に従事されてきました。そして都市政策や地域づくりに関するご著書・ご論文を執筆されております。とくに、イギリスでのご経験に基づく研究成果は秀逸だと思われます。また、赴任時においては大学院に配属されていたこともあり多くの院生を指導され、また、法学部においては学生とフィールドワークされたり外部講師をお招きしての授業を展開されております。地域・社会に出て物事を考えるという先生の学問スタイルを存分に発揮された教育研究を展開していただきました。

 このように葉陵陵先生、渡部薫先生は、長年にわたって法学部および大学院において本学の教育と研究、さらには大学運営や社会貢献活動・国際交流事業においても大きな足跡を残してこられました。豊富な経験と見識を持たれた二人の教授の退職は、法学部・大学院にとって多大な損失です。先生方におかれましては、今後とも本学を見守っていただきますとともに、益々ご壮健で過ごされることをお祈りし、これまでのご貢献に対して法学会を代表いたしまして心から御礼申し上げます。

  熊本大学法学会会長 大日方信春