学部長としての初めてのお仕事は2021年4月2日(金)の新入生オリエンテーションでの「学部長挨拶」でした。

本来なら、入部式(学部に入学するということで「入部式」と呼んでいます)で挨拶するのですが、コロナ禍、入部式自体は中止でした。密を避けるために新入生オリエンテーションは3回に分けて実施しています。ということで、わたしは下の挨拶を3回しました。

なお、全学の入学式は2022年4月4日(日)に小雨のなか、熊本県立劇場で実施されてます。

学部長挨拶

 

 本来なら4月4日の入学式のあと、法学部で行われる入部式(学部に入るということで入部式と呼んでいますが、その入部式)で皆さんにお話しするところですが、ご存じのような状況を受け入学式のあとの入部式は取り止めましたので、この場をお借りして、一言、お祝い申し上げます。
 皆さんが入学した熊本大学法学部のはじまりは、明治20年(1887年)に設置された第五中学校、それを引継ぎ明治27年(1894年)に設置された第五高等学校にまで遡ります。いまから120年以上前のことです。この旧制第五高等学校では、わが国のオリンピック初参加に貢献した柔道家の嘉納治五郎が校長を務め、ラフカディオ・ハーンや夏目漱石が教鞭を執り、物理学者の寺田寅彦や、池田勇人・佐藤栄作といった内閣総理大臣を輩出しています。太平洋戦争後、新制大学としての熊本大学が設置されたときは、法文学部として開設されましたが、昭和54年(1979年)の改組により、法学部が単独の学部として設置されました。本年が2021年ですから、42年前ということになります。
 皆さんがこうした伝統ある熊本大学法学部の一員となったことに、まずはお祝い申し上げます。おめでとうございます。
 ところで、皆さん、この日本にはいくつ大学があるか、ご存じでしょうか。昨年の文部科学省の学校基本調査によると、全国で大学は786校あったとのことです。多くの大学がある中で、こうして熊本大学を、そしてその中でも法学部を選んでもらったことに、厚く御礼申し上げます。ありがとうございます。
 さて、長く、そして、ときに苦しくもあった受験勉強を終え、こうして大学に入学することができた皆さんは、いまどのようなお気持ちでしょうか。SNS上で見られる「# 春から熊大」「春から熊大法学部です、よろしくお願いします」の文面を見て、微笑ましくも、また、羨ましくもあります。わたしのアカウントもフォローしてくれた人がいます。ありがとう。高校までとは違う大学生活ということで、きっと希望に満ちあふれていることでしょうね。
 わが身を振り返ってみると、もう30年以上前になりますが、故郷を離れた大学に入学することになり1人暮らしをはじめました。同じ高校からの進学者はいなかったので、すこし不安な大学生活のスタートでしたが、ほどなく友だちもでき、サークルやアルバイトをして、勉強もそこそこできました(笑)。大学という空間、環境が自分にあっていて心地よかったのでしょう、こうして大学教員になり、いま、皆さんの前で偉そうにお話しするようにまでなりました。当時はそう一日一日を大切にとか、意識的に生活していたわけでもなく、普通の大学生だったと思うのですが、それでも、大学時代は年齢的にも子どもから大人になり、1人暮らしやサークル・アルバイトで社会性を身につけ、大学が提供してくれたカリキュラムにそった勉学をすることで、いまの人生の基盤となる時間を過ごしていたのだと感じています。あの4年間は、いま思うと非常に貴重な時間でした。いまのわたしを作ってくれていたのです。皆さんにこれから訪れる4年間も、きっと人生の中で非常に貴重な時間になると思います。皆さんのこれからを作ってくれるはずです。
 ただ、これだけは自覚してほしいことがあります。先ほど、わが国に大学は786校あるといいましたが、そのうち、国立大学は86校あります。国立大学には運営費交付金という税金が投入されています。また、その国立大学86校のうち、「法学部」という名称のある学部をもつ大学は14校、九州では2校しかありません。法学という学問を修めた人は卒業後社会に出て組織の背骨になることが期待されている人材です。国は皆さんに国費を投入して、社会の背骨になる人物を養成しようとしているのです。そのことをよく理解し、プライドを持つと共に決して驕ることなく、与えられた環境を十分活かして、世の中を良くしていけるような人物になるようにしてください。公正で開かれた社会を築くことの手助けができる、そういう人材になれるはずであると、皆さんには期待が寄せられています。このことだけは自覚してください。
 最後になりますが、新型コロナウイルス感染症の影響がまだ治まらない中での入学となり、さまざまな不安、不都合があると思います。その中で、頑張ることも重要ですが、人を頼ることも重要です。皆さんは心身共に健康でさえいられれば、きっとうまくいく能力を持っています。健康、安全第一です。すこしでも心配なこと、不安なことがあれば、友だち、先輩、教員、誰でもいいので、話しをしてください。また、誰かが困っているようなら、声を掛けてあげてください。誰かを頼りにすることができる、そして、誰かに声を掛けてあげられることができる、そういう一人一人が集まって熊大法学部ができています。このことをお伝えして、新入生へのお祝いの言葉としたいと思います。
 熊本大学法学部へようこそ。わたしのお話しはこれで終わりです。

令和3年(2021年)4月2日 熊本大学法学部長 大日方信春