2021(令和3)年6月19日(土)に熊本大学で開催されたシンポジウム「冤罪被害者と犯罪被害者を結ぶ」での主催者挨拶です。

 わたしの挨拶

 熊本大学法学部学部長の大日方です。本日は、お忙しいところ、熊本大学大学院人文社会研究部主催、熊本大学法学部共催のシンポジウム「冤罪被害者と犯罪被害者を結ぶ」にご参加いただき、ありがとうございます。研究部及び法学部を代表いたしまして、一言、ご挨拶致します。

 昨年度のちょうど今ごろ、六月に本学は「被害者分断の克服に向けて」と題するシンポジウムを開催しています。これは、水俣病やハンセン病そして東日本大震災を原因とする福島第一原発事故等が発生したとき、国は、被害者の救済や補償に乗り出すわけですが、その過程でたとえば被害者認定の場面で、また補償額の算定において、一定の線引きをする。そうした国の行為が今度はいままで共に活動してきた被害者同士のなかにある種の分断を生じさせてしまっている。そのことが本来なら共に原因企業や国の責任を問う者たちの間で、その活動の原動力を削ぐことにつながっているのではないか。ときにそこには国の意図的なものががあるのではないか。そうした問題関心から企画されたものでした。

 本日のシンポジウムは、こうした「被害者間の分断」をテーマにするシンポジウムの第二弾として企画されたものです。そのテーマは「冤罪被害者と犯罪被害者を結ぶ」。冤罪被害者とは刑事裁判において「無実であるのに犯罪者として扱われた者」のことですが、そうした者が再審裁判で無罪判決を得ることは非常に好ましいことであると考えられる一方で、当該刑事事件の被害者及びその家族・遺族にとっては、強い憤りを感じるものであるようにも思われます。このように、冤罪被害者と犯罪被害者との間には、いわゆる分断の構造が見て取れるのです。

 本日は、本学の岡田行雄教授のコーディネイトの下で、三名のパネリストにお越しいただいております。それぞれの方については、後ほど、岡田教授からご紹介があると思われますが、いずれも国の刑事司法制度にご意見・ご批判をもちさまざまな活動をされている方々です。本学の本日の試みから、ともすると分断される状況にある冤罪犯罪者と犯罪被害者の両者が協働して、国の司法制度・司法政策を改善に向かわせる何らかの成果、あるいはその成果を上げるための結びつきの切っ掛けでも得られればと期待しております。

 最後に、本日は学生の視聴もあると思います。本学には法学部の上に社会文化科学教育部法政・紛争解決学専攻という大学院があります。きょうは法学部そしてこの大学院で日頃どのような研究がなされているのかの一端にふれる機会となっております。すこし背伸びをしたお話しになるかもしれませんが、諸君がこれから社会を担っていくにあたって知っていなければならない実態についてお話いただけると思いますので、よく聞いて、今後の学修の中で活かしていってもらいたいと思っております。

 すこし長くなりましたが、これをシンポジウム開催にあたってのわたしからのご挨拶とさせていただきます。

シンポジウムの内容は熊本法学153号(2021年)に掲載されています。

https://kumadai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=33084&item_no=1&page_id=13&block_id=21