このお仕事をしていると、新聞等のメディアから憲法問題に関するコメントを求められることがあります。
もっとも、わたしのような無名学者は、たまにしかありませんが。
ただ、折角個人ウェブページを作ったので、過去のものも含めて、新聞等に掲載されたコメントも紹介し、まとめておきたいと思います。きょうはその第1弾です。
読売新聞政治部による憲法学者意向調査
2018年の3月下旬、自民党は自衛隊の根拠規定の明記など4項目にわたる憲法改正案をまとめました。それを受けて、読売新聞政治部が『憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣)の中の憲法学者に意向調査を実施しています。
その意向調査にあった「憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに、自衛隊の根拠規定を明記する条文を追加することについて、お考えに近いのはどちらでしょうか、また、その理由やご意見について、記入欄にお書きください」という質問に、わたしは、まず「反対」と回答して、次のように記入しています。
大日方信春 熊本大学教授
憲法9条1項、2項の規範内容が不明確である状況下において、自衛隊を憲法に規定することは、憲法による有効な統制をもたない。しかも、憲法上の一定の自律的権限をもつ軍事的国家機関をもつことと同じだと思われるので。
https://www.yomiuri.co.jp/topics/20180508-OYT8T50019/
(この記事は中央公論2018年6月号にも掲載されています)。
背景にある法理論
わたしは日本国憲法9条は軍隊の保持を禁止していると理解しています。その意味は、軍務(国防に関する事務)を行政として実施することにあると考えています。軍務は、法律の執行=行政であるべきである、と考えているのです。
これに関係して、わたしは、自衛隊は国防に関する事務を執行するために自衛隊法という法律によって設置された行政機関である、と見えています。したがって、自衛隊は、現在は実情はどうであれ、法理論的には国会が法律を通して統制できる地位に止められていると思われます。すなわち、法律上の国家機関であると言えると思います。
ところが、自衛隊を憲法上の国家機関とするなら、この国会による統制を離れて憲法上の自律権をもつ国家機関となってしまう。すくなくとも、憲法理論的にはそのことを否定できないのではないか。そう考えて、わたしは読売新聞の意向調査に上のように回答しました。
詳しくは、大日方信春『憲法Ⅰ 総論・統治機構論』(有信堂高文社、2015年)107-109頁の参照をお願いします。
その最後には次のように書きました。
「自衛隊は、憲法上の軍隊ではないだけに、憲法上の権限を有していない。かりに憲法改正が成り、わが国が憲法上の軍隊をもつようなことになれば、それはわが国の軍務に対して国会の法律制定権を通じてなされてきた民主的統制の箍を緩めることになるであろう」。
みなさんはどう考えますか。