熊大の赤煉瓦 『一筆』第11回 紙面画像

 

 熊本大の前身の―つに、旧制第五高等学校があります。嘉納治五郎らが校長を務め、ラフカディオ・ハーンや夏目漱石が教壇に立ち、佐藤栄作元首相や田中二郎最高裁判事も輩出しました。そうした伝統の面影は、構内にある建造物からも、うかがうことができます。

 黒髪キャンパスで旧豊後街道(県道337号)に面した正門は、1889(明治22)年ごろの完成で、煉瓦と自然石を組み合わせた造りから「赤門」と呼ばれ、五高の表門でした。赤門からサインカーブの歩道を抜けると、熊大のシンボルといえる旧制五高の本館(現在の五高記念館)があります。明治22年に完成した赤煉瓦の教室棟で、現存する旧制高校の建物としては、最も古いものの一つです。併設の化学実験場も完全な形で残っており、正門、本館、化学実験場はいずれも国指定の重要文化財です。
 五高本館や化学実験場内の教室は、熊本大学となってからも講義室などに使っていましたが、熊本地農で被災しました。復旧のために工事用の覆いがかぶせられた後は、赤煉瓦の雄姿が見られなくなりました。来客が訪れる度に自慢をし、卒業シーズンにはゼミ生と集合写真を撮影した思い出の建物です。この間、教員や学生には埋めようのない物寂しさがありました。
 震災から5年を経て、五高本館の復旧は今年12月に完了する予定です。学内には、これを契機とした「キャンパスミュージアム」構想があるようです。伝統と新興の気風が融合する空間を取り戻せたら、と期待しています。