大日方信春教授の熊日エッセイ『一筆』第1回 憲法を学ぶ

 大学で憲法学を研究する職を得て20年余り。講義やゼミで学生に教えつつ、私も憲法を学び続ける身ですが、そもそも「憲法を学ぶ」とはどういうことでしょうか。
 憲法は、コンスティテューションの訳語で「国家の基本方針」を意味します。成文の憲法を「憲法典」といい、その国の基本方針(ポリシー)が文書になったものです。したがって、103カ条から成る日本国憲法には、わが国の基本方針が書き込まれています。では、わが国の基本方針とは何なのか。そこを突き詰めるのが、憲法学という学問です。

 皆さんは、学生時代に小論文を書いたことはありますか?テーマに沿って書くべき要素を頭で整理したつもりなのに、全ては盛り込めなかった苦い経験をした人も多いと思います。憲法典も同じで、国の基本方針が書かれているけれども、全てを書き切れているわけではありません。
 そこで、憲法典の行間を埋めるには、裁判所の過去の判例や学説を押さえておくことが重要です。時代による価値観の変化や国際環境に合わせた法解釈が必要な場面もあるでしょう。そんな行為を絶えず繰り返して、国の基本方針を考えることが、憲法を「学ぶ」ということなのです。
 研究で壁にぶつかった時には、洋の東西を問わず、法学の枠を飛び越えて哲学や歴史学、経済学にヒントを求めることもあります。人文社会科学の英知によりながら、国家を巡る大きな世界観を持つことができる。それが、憲法学の最大の魅力ではないでしょうか。