著作権と表現の自由 『一筆』第8回 紙面画像

 

 一口に憲法学といっても、研究テーマは多岐にわたります。統治の分野は国会、内閣、裁判所の権限の分析が中心で、人権の分野では、思想・良心の自由や財産権の保障などがあります。私は近年、「著作権と表現の自由」に注目しています。

 美術や音楽、文学といった「表現」は人間の精神的な創作物であり、古くから模倣は付き物です。そこで著作権法で、表現に一定の管理権を認め、作品などの商業的取引を可能にしました。表現に著作権を設定し、その利益を著作者に帰属させることで、創作活動をより活性化することが目的です。
 ところが現代では、コンテンツが生み出す莫大な富の独占に著作権が利用される側面も出てきました。米国は1998年、作者の死後50年などとされた著作権の期間を20年延長しました。背景には、ミッキーマウスの期限切れが迫ったことに端を発した巨大娯楽企業のロビー活動があったと言われています。
 著作権の期間が経過した作品は本来、誰でも自由に使えるはずです。行き過ぎた著作権保護は、日本では憲法21条で保障された「表現の自由」を制約しすぎることになりはしないか―。そんな視点が、私の研究テーマです。
 デジタル技術で劣化しない複製が可能になり、誰でもインターネットで容易に発信できる時代です。著作権保護の強化を求める声が強まる社会で、表現の自由とのバランスをどう取るかは課題ですが、文化の発展には誰もが萎縮せずに表現できる環境が必要だと思っています。