コロナと憲法 『一筆』第5回 紙面画像

 

 新型コロナウイルスの猛威で、政府の「緊急事態宣言」が再発令されました。独自に宣言した熊本を含め、知事たちは飲食店の時短営業や外出自粛を求めています。ただ、国民に営業や移動(旅行)の自由を保障している憲法との関係は、常にクローズアップされます。

 海外では、事実上の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切った国がありました。フランスは憲法16条の緊急事態条項、米国は国家非常事態法が根拠です。自由を尊重するイメージが強い両国ですが、民衆が蜂起したフランス革命の経験から、統治を安定させるために憲法などで大統領に強力な権限を与えています。統治を脅かす存在として憲法は議会(民主勢力)の方を警戒している、というわけです。
 翻って、日本にロックダウンを可能にする憲法の規定や法律はありません。これは日本国憲法が、戦前の天皇の権限を引き継ぐ内閣への権力集中を警戒していることの表れでしょう。国会の権限を強くすることで、日本に民主主義を根付かせる狙いがあったのかもしれません。憲法の条文にある「公共の福祉」目的であれば、法令で私権の制限が可能ですが、その範囲は抑制的で、新型コロナ特措法でも「必要最小限」と規定されています。
 国家の非常事態では、「安全」という全体の利益が、「自由」という個人の利益に対して優先されがちなことには、注意が必要です。どこまでが「必要最小限」かー。長引くコロナ禍で、私たちは悩みながら答えを出していくしかなさそうです。