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 皆さんは「法」にどんなイメージを持っていますか?
 何かを禁止するもの、治安を維持するもの…。「法」には、違反した時の制裁が用意されていることが一般的ですね。そうしないと法が求めている内容を実硯できないからです。では、ゼミで取り上げた「理念規定」のように制裁が用意されず、法的な効力もない規定を制定している理由は何でしょうか。

 法には「表現機能がある」と言われることがあります。立法者(法律なら国会、憲法なら国民)が、その法の名宛人(法律なら国民、憲法なら国家)に対し、望ましい理念を伝える効果があるというのです。
 社会福祉や公衆衛生の向上に国が努めるよう求めた憲法25条2項は理念規定とされ、その趣旨が社会で実現していなくても、司法に救済を求めることはできません。それでも国民が憲法で示した意思は政府に伝わり、戦後徐々に実現してきたと言えるのではないでしょうか。
 憲法(Constitution)とは、国の基本方針のことです。近代立憲主義の憲法像として最も重要だったのは、市民の自由を守るために国家の行為を制限する規範であることでした。半面、憲法には前文をはじめ、条文やその解釈で随所に国家の理想の姿や目指す方向性が示されています。その実現に向けて国家にさまざまな権限を授けているのが、現代憲法の特徴と言えます。
 ただ、国家の理想をあれもこれも憲法の条文に書き込んでいいか、という議論はあります。理念規定が増えれば増えるほど、憲法が”インフレ化”し、「制限規範としての重みが薄れる」という懸念です。
 中央政界で「教育の充実」を巡る改憲論議が始まっています。改正案が提示されたなら、「私たちは憲法を通して国家にどのような教育政策を求めようとしているのか」「教育の理念・理想は何か」といった視点で条文の意味合いを注意深く検討する必要があるでしょう。憲法は、統治者を拘束する法であると同時に、現在の国民から将来の国民、あるいは世界に向けたメッセージでもあるのですから。