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 近代立憲主義が成立する以前、国家の権限は全て君主である王が握っていました。17~18世紀に始まった民主制による統治では立法や行政、司法といった権限をどの機関が担うのかを憲法に書き込むことで、権力の分立を実現しています。

 「防衛」も国家権限の一つです。諸外国では、憲法で自国を防衛する権限を規定しているのが一般的ですが、日本国憲法にはそれがありません。9条2項で戦力保持を禁じているためですが、朝鮮戦争が勃発した1950年に自衛隊の前身・警察予備隊が発足して以降、国防を担う機関と9条の関係は、常に憲法論議の中心に据えられてきました。
 国家である以上、防衛は政府の役務と考えざるを得ません。そこで政府は法律で自衛隊を設置し、国土防衛の任務を課してきました。自衛隊が法律上の国家機関であれば上位規範の憲法の枠内でしか権限を行使できない、という立憲主義の要請にもかなうことになるのです。
 自民党は今年3月、9条に自衛隊を明記する改正条文案をまとめました。「違憲論争に終止符を打つ」という狙いもあるようです。ここで注意が必要なのは、自衛隊が憲法上の国家機関となれば一定の「自律権」が認められるのではないか、という点です。
 衆参両院や内閣、最高裁判所といった憲法上の国家機関は、他の国家機関から干渉を受けずに意思決定し、権限を行使できると解釈されています。もちろん、「憲法に反しない限り」という前提はありますが…。
 改憲論議では、自衛隊と自律権の兼ね合いを慎重に見極める必要があるでしょう。実際、9条に自衛隊を明記すれば「法律上の国家機関である防衛省と力関係が逆転する」という議論もありました。
 国防の本質は軍務、という特殊性もあります。陸自PKO(国連平和維持活動)の日報隠し問題が話題になりましたが、派遣現場の状況が刻一刻と変化する中、自衛隊は法律上の機関である今でも、統制の難しさが指摘されています。
 そもそも、自衛隊が合憲か否かは「9条明記」だけで決着することはありません。政府が自衛隊に与えようとしている権限や実際の任務が、憲法やその他の法令に反していないか、という点こそが軍要なのです。